パーリ仏典






パーリ仏典(タイ国)


パーリ仏典パーリ語仏典パーリ聖典Pali Canon)、あるいはパーリ三蔵(巴: Tipiṭaka, ティピタカ、三蔵のこと)は、南伝の上座部仏教に伝わるパーリ語で書かれた仏典である。北伝の大乗仏教に伝わる漢語・チベット語の仏典と並ぶ三大仏典群の1つ。


パーリ経典パーリ語経典)とも呼ばれることがあるが、経典(sutta, sutra)は通常、仏教においては三蔵の内の「経蔵」(sutta pitaka, sutra pitaka)典籍を意味する語なので、[要出典]これだと仏典よりも狭い限定的な意味のニュアンスを持った表現となる。(ただし、パーリ律の戒律解説部分を経分別(Sutta-vibhanga)と呼ぶことからも分かるように、三蔵が整備される前の古い段階では、律も含めた典籍全般を「経」(sutta)と呼んでいたとも考えられる。)[要出典]


日本でも戦前に輸入・翻訳され、漢訳大蔵経(北伝大蔵経)、チベット大蔵経に対して、『南伝大蔵経』『パーリ大蔵経』(パーリ語大蔵経)などとしても知られる。




目次






  • 1 概要


  • 2 内容


  • 3 構成


    • 3.1 律蔵


    • 3.2 経蔵


    • 3.3 論蔵


    • 3.4 注釈・復注釈


    • 3.5 その他




  • 4 南伝大蔵経


    • 4.1 翻訳・出版


    • 4.2 著作権問題




  • 5 日本語訳


    • 5.1 全訳


    • 5.2 部分訳


      • 5.2.1 経蔵長部


      • 5.2.2 経蔵中部


      • 5.2.3 経蔵相応部


      • 5.2.4 経蔵増支部


      • 5.2.5 経蔵小部




    • 5.3 その他




  • 6 脚注


    • 6.1 注釈


    • 6.2 出典




  • 7 関連項目


  • 8 外部リンク





概要






パーリ仏典は、部派仏教時代に使われていたプラークリット(俗語)の1つであり、(釈迦が生きた北東インドのマガダ地方の方言ではなく)西インド系[1]の、より具体的にはウッジャイン周辺で用いられたピシャーチャ語の一種であると推定されるパーリ語で書かれている[2]。第1回-第3回の結集や、後代における仏典のサンスクリット化からも分かる通り、仏典はその歴史の過程で編纂・増広・翻訳が繰り返されており、パーリ仏典はその歴史過程における、インド部派仏教時代の形態を強く留めている、現存する唯一の仏典だと言える。


上座部仏教では伝統的に、この仏典の言語であるパーリ語が、釈迦が用いたいわゆるマガダ語であると信じられてきたが、学問的知見が広まった今日においてはそうした主張は弱まってきている。ただし、マガダ語とパーリ語は、実際には言語的にそれほど相違しておらず、語彙をほぼ共有し、文法上の差異もさほどないなど、むしろかなり近似的な関係にあったと推定されている[3]


更に、パーリ仏典は、紀元後に仏典のサンスクリット化や大乗仏教化が進む以前の、プラークリット(俗語)の形態を留めたまとまったテキストとしては唯一現存するものであり、特に、インド系言語特有の言葉遣い・ニュアンスの保存という点で言えば、仮にパーリ語がマガダ語からいくらか離れた方言だったとしても、音韻・文法・語彙体系が全く異なる漢語・チベット語に翻訳されてしまった北伝仏典と比べれば、比較するまでもないほど遥かに良好にそれが保存されていると言える。[要出典]


特定の文字・表記で継承されて来なかったため、伝播したそれぞれの地域の文字で書き留められてきた。また、現在でもスリランカ、ミャンマー、タイ等でそれぞれ見られるように、地域の音韻的な訛りが若干混じることもある。[要出典]


なお、「パーリ」とは聖典の意であり[1]、各経典に関して「〜聖典」(-pali)という表現もよく用いられる。パーリ語という言語名も「聖典(パーリ)の言葉」「聖典語」というところから付けられた通称に過ぎない。


現在、スリランカ・ミャンマー・タイ等の上座部仏教文化圏で流通しているパーリ仏典は、分別説部(赤銅鍱部)と呼ばれる上座部一派の流れをくむ、スリランカ仏教大寺派に起源を持つものが、12世紀以降に広まったものであり、瑣末な差異こそあれ、基本的に同一のテキストである。


近代以降は、1881年にロンドンに設立されたパーリ聖典協会(Pali Text Society, PTS)の校訂出版本[注釈 1]や、1954年にビルマ(ミャンマー)のヤンゴン(ラングーン)で行われた第6回結集によって編纂された聖典テキスト(第六回結集本)[注釈 2]等が、共通の底本となっている。



内容










律は中国やチベットにそれぞれ伝わっているものとは異なる独自のもので、通称『パーリ律』と呼ばれる。


経は漢訳大蔵経で言えば、概ね「阿含部」「本縁部」に相当するもので、当然のことながら大乗仏教経典は含まれていない。



構成


漢訳仏典、チベット語訳仏典と同じく、律蔵(Vinaya Piṭaka(ヴィナヤ・ピタカ))、経蔵(Sutta Piṭaka(スッタ・ピタカ))、論蔵(Abhidhamma Piṭaka(アビダンマ・ピタカ))の三蔵(Tipiṭaka(ティピタカ))から成る。順序としては、律蔵が軽視されて後回しにされる漢訳とは異なり、チベット仏典と同じく、律蔵が最初に来る。



律蔵





経蔵





論蔵




  • 論蔵(Abhidhamma Piṭaka(アビダンマ・ピタカ)):解説・注釈

    • 法集論(Dhammasaṅgaṇī

    • 分別論(Vibhaṅga

    • 界論(Dhātukathā

    • 人施設論(Puggalapaññatti

    • 論事(Kathāvatthu

    • 双論(Yamaka

    • 発趣論(Paṭṭhāna




注釈・復注釈



また、パーリ仏典には、




  • アッタカター(Aṭṭhakathā) - 注釈(註釈)書


  • ティーカー(Ṭīkā) - 複注釈(註釈)書・復注釈(註釈)書


と呼ばれる注釈文献群が付属しており、パーリ仏典の内容解釈に際して参照される。


ちなみに、下掲する日本語訳の中では、大蔵出版の片山一良訳 『パーリ仏典』シリーズが、これら注釈文献を参照した日本語訳として知られている[5]


南伝アビダンマの綱要書である『アビダンマッタサンガハ』はティーカー(復注釈書)に含まれる。



その他


その他の付属・関連文献(Anya アニヤと表現される)としては、ブッダゴーサの『清浄道論』や、レディ・サヤドーの文献等がある。



南伝大蔵経



翻訳・出版


上座部仏教とその仏典である『パーリ語仏典』の存在は、日本が近代化した明治以降知られるようになり、釈興然のようにスリランカへと渡航し、上座部仏教の出家者(比丘)となった者や、学者たちによって、日本へとその情報・知識が持ち込まれ、理解が急速に進展した。[要出典]


『パーリ語仏典』の日本語への翻訳(全訳)は、パーリ聖典協会(Pali Text Society, PTS)の校訂出版本を底本とした日本語訳として、漢訳仏典の集成である『大正新脩大蔵経』(1923年-1934年、全88巻)を手がけた高楠順次郎らによって進められ、1935年から1941年にかけて、『南伝大蔵経』全65巻70冊として刊行・出版された[6]



著作権問題


国立国会図書館は、「近代デジタルライブラリー」事業の一環として、2007年7月からは『大正新脩大蔵経』の大正期刊行分を、2013年2月からは『大正新脩大蔵経』の昭和期刊行分と『南伝大蔵経』を、著作権切れの刊行物としてインターネット公開を始めたが、2008年からこれらを出版物として扱っている大蔵出版から抗議を受けるようになった。それに対して国立国会図書館は、2013年5-6月より、それらのインターネット公開を一時停止し、抗議内容を検討した。


2014年1月、半年間の検討期間を経て、国立国会図書館は、『大正新脩大蔵経』のインターネット公開は再開するが、『南伝大蔵経』は当分の間は館内公開に留め、インターネット公開は行わないと発表した[7]。この「南伝大蔵経問題」の一連の経緯は、図書館の「無料原則」「民業圧迫の回避」や著作権問題と合わせて様々な議論を巻き起こした[8]


国立国会図書館は、この件における経緯と対応について、「インターネット提供に対する出版社の申出への対応について」という文書をインターネット上に発表している[9]



日本語訳



全訳


  • 『南伝大蔵経』(全65巻70冊) 大蔵出版

    • 『律蔵』(5巻5冊)

    • 『経蔵』(39巻42冊)

    • 『論蔵』(14巻15冊)

    • 『蔵外』(7巻8冊)




部分訳



経蔵長部


経蔵長部 全訳



  • 『原始仏典 長部経典1-3』(第1-3巻)中村元監修 春秋社

  • 『パーリ仏典 長部(ディーガニカーヤ)』(全6巻)片山一良訳 大蔵出版


サーマンニャパラ経(沙門果経)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』中央公論社

マハーパリニッバーナ経(大般涅槃経)


  • 『ブッダ最後の旅―大パリニッバーナ経』中村元訳 岩波文庫


経蔵中部


経蔵中部 全訳



  • 『原始仏典 中部経典1-4』(第4-7巻)中村元監修 春秋社

  • 『パーリ仏典 中部(マッジマニカーヤ)』(全6巻)片山一良訳 大蔵出版


マハー(大)ハッティパドーパマ経(象跡喩大経)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「象の足跡のたとえ」中央公論社

チューラ(小)マールキヤ経(摩羅迦小経)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「毒矢のたとえ」中央公論社

アングリマーラ経(鴦掘摩経)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「兇賊の帰依」中央公論社

アッサラーヤナ経(阿摂惒経)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「階級の平等」中央公論社

バフダートゥカ経(多界経)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「種々の界」中央公論社


経蔵相応部


経蔵相応部 全訳



  • 『原始仏典II 相応部経典』(全6巻)中村元監修 春秋社

  • 『パーリ仏典 相応部(サンユッタニカーヤ)』(全10巻既刊8巻)片山一良訳 大蔵出版


有偈篇 全訳



  • 『ブッダ神々との対話―サンユッタ・ニカーヤ1 』中村元訳 岩波文庫

  • 『ブッダ悪魔との対話――サンユッタ・ニカーヤ2 』中村元訳 岩波文庫


デーヴァター相応(諸天相応)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「サミッディの出家」中央公論社

ブラフマ相応(梵天相応)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「説法の要請(梵天勧請)」中央公論社

サッチャ相応(諦相応)


  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』「はじめての説法(初転法輪)」中央公論社


経蔵増支部


  • 『原始仏典III 増支部経典』(全8巻既刊5巻)中村元監修 春秋社


経蔵小部


経蔵小部 全訳


  • 『小部経典』 全10巻、正田大観、Evolving/Kindle 2015年

ダンマパダ(法句経)


  • 『ブッダの真理のことば・感興のことば』中村元訳 岩波文庫

スッタニパータ(経集)



  • 『ブッダのことば―スッタニパータ』中村元訳 岩波文庫

  • 『スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳』 荒牧典俊・本庄良文・榎本文雄、講談社学術文庫 2015年


テーラガーター(長老偈経)


  • 『仏弟子の告白―テーラガーター』中村元訳 岩波文庫

テーリーガーター(長老尼偈経)


  • 『尼僧の告白―テーリーガーター』中村元訳 岩波文庫

ジャータカ(本生経)


  • 『ジャータカ全集』(全10巻)中村元監修 春秋社

ミリンダパンハ(弥蘭陀王問経)



  • 『世界の名著〈1〉バラモン教典, 原始仏典 』中央公論社

  • 『ミリンダ王の問い―インドとギリシアの対決』中村元・早島鏡正訳 平凡社〈東洋文庫〉



その他


  • 『阿含経典1-3』 増谷文雄訳 筑摩書房


脚注



注釈


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  1. ^ 『南伝大蔵経』や、中村元らの翻訳本は、これを底本としている。


  2. ^ 現在、大蔵出版から刊行され続けている片山一良訳の『パーリ仏典』シリーズは、これを底本としている。




出典




  1. ^ abパーリ語とは - 世界の主要言語がわかる事典/講談社/コトバンク


  2. ^ 『バウッダ [佛教]』 中村元 講談社学術文庫 p.100


  3. ^ 『バウッダ [佛教]』 中村元 講談社学術文庫 p.101


  4. ^ 『増一阿含経』


  5. ^ パーリ仏典 片山良一訳 - 大蔵出版


  6. ^ 南伝大蔵経とは - ブリタニカ国際大百科事典/コトバンク


  7. ^ “全文表示|著作権切れ書籍データのネット公開停止 出版社側からの抗議に国会図書館が折れる : J-CASTニュース”. 2015年11月9日閲覧。


  8. ^ 湯浅俊彦編著「電子出版と電子図書館の最前線を創り出す」(出版メディアパル、2015)、pp.201-203。


  9. ^ “インターネット提供に対する出版社の申出への対応について”. 2015年11月9日閲覧。 国立国会図書館、2014年1月




関連項目







  • 阿含経

  • 経典

  • 日本テーラワーダ仏教協会



外部リンク




  • The Pali Tipitaka - 第6結集本のパーリ語原文を、様々な文字で読める


  • Tipitaka: The Pali Canon(英訳) - Access to Insight


  • パーリ語日常読誦経典 - 日本テーラワーダ仏教協会


  • 南伝大蔵経 - 大蔵出版公式サイト








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