介護保険








介護保険(かいごほけん、英語: Long-term care insurance)とは、介護を事由として支給される保険。ドイツ、オランダなどでは通常の医療保険から独立した社会保険制度となっている。一方でイギリスやスウェーデンで一般税収を財源とした制度となっている。


日本では公的介護保険と民間介護保険があり、民間介護保険の保障内容には介護一時金や介護年金などがある。


本記事では、社会の高齢化に対応し、平成9年(1997年)の国会で制定された介護保険法に基づき、平成12年(2000年)4月1日から施行された日本の社会保険制度について記述する。(以下、介護保険法については条数のみ記す。)




目次






  • 1 目的等


  • 2 保険者


  • 3 被保険者


    • 3.1 適用除外施設


    • 3.2 住所地特例


    • 3.3 労災保険との調整




  • 4 財源


  • 5 保険料


    • 5.1 第1号被保険者の保険料


    • 5.2 第2号被保険者の保険料




  • 6 認定手続き


  • 7 給付の種類


    • 7.1 保険給付に関する事柄


    • 7.2 自己負担に関する事柄


    • 7.3 利用費


    • 7.4 地域支援事業等


    • 7.5 受給権の保護




  • 8 不服申立て


  • 9 時効


  • 10 課題


    • 10.1 デイサービスの過剰供給


    • 10.2 施設サービスの供給不足


    • 10.3 不正請求




  • 11 介護報酬


  • 12 脚注


  • 13 参考文献


  • 14 関連項目


  • 15 外部リンク





目的等


介護保険法は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする(第1条)。


かつての日本の公的介護制度は、老人福祉法による福祉の措置として、やむを得ない事由による行政措置の範疇に留まっていた[1]。平成に入ってから、それに代わる新たな制度が議論され、ゴールドプランなどの政策と合わせて、おおむねドイツの介護保険制度をモデルに介護保険制度が導入された[2]。介護保険料については、新たな負担に対する世論の反発を避けるため、導入当初は半年間徴収が凍結され、平成12年(2000年)10月から半額徴収、平成13年(2001年)10月から全額徴収という経緯をたどっている。


介護保険制度では、以下の点にねらいがある。



  • 市町村による行政措置から、社会保険制度への転換

  • 要介護者の家族を介護負担と介護費用負担から解放し、社会全体の労働力と財源で介護する

  • 要介護者が本人や家族の所得や財産にかかわらず、要介護者本人や家族が望む必要で十分な介護サービスを介護事業者から受けられる

  • 多様な事業者によるサービスを提供し、専門的サービス産業としての介護産業を確立する。

  • 医療と介護の役割分担を明確化し、急性期や慢性期の医療の必要がない要介護者を介護サービスにより介護し、介護目的の入院を介護施設に移す。


介護サービスの利用者は在宅サービスを中心に着実に増加し、2000年4月には149万人であったサービス利用者数は、2015年(平成27年)4月には511万人と、約3.4倍になっている[3]



保険者


保険者は原則として市町村及び特別区(以下、特に断らない限り「市町村」と略す)であるが(第3条)、厚生労働省が広域化を勧めてきたことから、広域連合や一部事務組合で運営されているケースも多い。厚生労働大臣の定める基本方針に即して、市町村は保険給付の円滑な実施について「市町村介護保険事業計画」を3年を1期として定める(第117条)。


保険者が小規模であるほど、予防による財政効果が目に見えやすいが、安定した経営が難しい。このため、介護保険事業は保険者たる市町村を国や都道府県、及び医療保険各法による医療保険者(全国健康保険協会、健康保険組合、国民健康保険組合、市町村、共済組合等[4])が重層的に支える仕組みとなっている。すなわち、



  • 国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない(第5条第1項)。
    • 厚生労働大臣は、「地域における医療及び介護の総合的な確保の推進に関する法律」に規定する総合確保方針に即して、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本指針を定める(第116条)。


  • 都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならない(第5条第2項)。
    • 厚生労働大臣の定める基本方針に即して、都道府県は保険給付の円滑な実施の支援についての「都道府県介護保険事業支援計画」を3年を1期として定める(第118条)。


  • 国及び地方公共団体は、被保険者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、保険給付に係る保健医療サービス及び福祉サービスに関する施策、要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止のための施策並びに地域における自立した日常生活の支援のための施策を、医療及び居住に関する施策との有機的な連携を図りつつ包括的に推進するよう努めなければならない(第5条第3項)。

  • 国及び地方公共団体は、被保険者に対して認知症に対する国民の関心及び理解を深め、認知症である者への支援が適切に行われるよう、認知症に関する知識の普及及び啓発に努めなければならない。国及び地方公共団体は、被保険者に対して認知症に係る適切な保健医療サービス及び福祉サービスを提供するため、認知症の予防、診断及び治療並びに認知症である者の心身の特性に応じたリハビリテーション及び介護方法に関する調査研究の推進並びにその成果の活用に努めるとともに、認知症である者を現に介護する者の支援並びに認知症である者の支援に係る人材の確保及び資質の向上を図るために必要な措置を講ずることその他の認知症に関する施策を総合的に推進するよう努めなければならない(第5条の2)。

  • 医療保険者は、介護保険事業が健全かつ円滑に行われるよう協力しなければならない(第6条)。



被保険者


市町村の区域内に住所を有する、40歳以上の者が被保険者となる。このうち、65歳以上の者を第1号被保険者といい、40歳以上65歳未満の医療保険加入者を第2号被保険者という(第9条、第10条)。医療保険に加入していない者(例:生活保護法による医療扶助を受けている場合など)は第2号被保険者ではない。第1号被保険者、第2号被保険者とも要件を満たすことで当然に被保険者となる。また医療保険とは異なり、被保険者の資格を失った場合の「任意継続」といった制度はない。


資格取得日は、第1号被保険者は65歳到達日、第2号被保険者は40歳到達日または医療保険加入日である。また第1号・第2号共通で当該市町村の区域内に住所を有することになった場合はその日である。資格喪失日は、海外移住等により当該市町村の区域内に住所を有しなくなった場合はその翌日(他の市町村に住所を有することとなった場合はその日)、第2号被保険者は医療保険被保険者でなくなった場合はその日である。


市町村は、第1号被保険者に対し、被保険者証を交付しなければならない。また第2号被保険者のうち、要介護認定・要支援認定の申請を行った者及び被保険者証の交付を求めた者に対し、被保険者証を発行しなければならない(医療保険とは異なり、すべての被保険者に被保険者証が発行されるわけではない)。



適用除外施設


法律で定める特定の施設に入所している者は介護保険の適用を受けない。これらの施設を適用除外施設といい、その設立又は設置の根拠となる法律等において介護サービスと同等なサービスを提供することが予定されているため、重ねて介護保険制度によるサービス提供をする不都合を回避するために規定されている。



住所地特例


ある被保険者が別の保険者の区域内にある住所地特例施設に入所した際に、その施設に住所を移した場合、引き続き従前の保険者の被保険者となる(第13条)。施設に他の保険者の被保険者が入所することにより、施設所在地の市町村の給付費が負担増とならないようにするために設けられている措置。




  • 介護保険施設(指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設)

  • 養護老人ホーム、特定施設(地域密着型特定施設を除く。平成18年(2006年)4月、法改正により追加)



労災保険との調整


介護給付等は、当該要介護状態等につき、労働者災害補償保険法の規定による療養補償給付等を受けられるときは、その限度において行われない(第20条)。



財源


介護給付費の財源は、公費(税収や国債などの政府や自治体の直接収入)と介護保険料(高齢者及び若年者)で賄われ、その比率は50%ずつである[5]


財源の内訳は、公費負担部分については、国の負担は在宅介護給付は25%・施設介護給付は20%、都道府県の負担は在宅介護給付は12.5%・施設介護給付は17.5%、市区町村の負担は在宅介護給付・施設介護給付とも12.5%となる(第121条 - 第124条)。保険料負担部分は、平成30年度から平成32年度までの3年度においては第1号被保険者保険料(以下「第1号保険料」)は23%、第2号被保険者保険料(以下「第2号保険料」、実際には社会保険診療報酬支払基金が医療保険者から徴収し、「介護給付費交付金」として市町村に交付する)は27%である(平成29年11月22日政令第285号)。当初は国50%、都道府県25%、市区町村25%であった。


国の負担部分のうち5%部分については調整交付金として交付される。これは要介護となるリスクが高い後期高齢者数の割合や市町村ごとの高齢者の所得格差による収入減を調整し、市町村間の財政力の差を解消しようとするものである。自治体関係団体は調整交付金を25%の外枠にするように求めている。



保険料



第1号被保険者の保険料


市町村は第1号被保険者より、介護保険事業に要する費用(財政安定化基金拠出金の納付に要する費用を含む。)に充てるため、保険料を徴収しなければならない(第129条第1項)。


第1号被保険者の保険料は市町村民税の課税状況等に応じて、段階別に設定されていて、保険料率が原則9段階ある。市町村は、条例で定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる(第142条)。


現在の全国平均月額(第7期、2018年度〈平成30年度〉 - 2020年度〈平成32年度〉)は5,869円である[6]。第1号被保険者の介護保険料は3年に1度策定される介護保険事業計画における介護サービスの供給量等に基づき、保険者毎に基準の保険料が設定され、被保険者の所得状況等に応じて、課せられる[5]。保険料率は、保険給付に要する費用の予想額等に照らし、おおむね3年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならない(第129条第3項)[7]


第1号被保険者の場合、受給する公的年金の総額が18万円以上の場合、介護保険料は公的年金からの天引き(特別徴収)となる(第131条)。ここでいう「公的年金」とは、老齢基礎年金のみならず障害基礎年金・障害厚生年金、遺族基礎年金・遺族厚生年金も含むが、老齢厚生年金は含まない(老齢厚生年金は老齢基礎年金又は障害基礎年金と併給されるため、老齢厚生年金から天引きされることは無い)。介護保険料と国民健康保険・後期高齢者医療制度との保険料の合算額が当該年金受給額の2分の1を超える場合、国民健康保険・後期高齢者医療制度の保険料は特別徴収されなくなるが、介護保険料については特別徴収となる。


特別徴収されない第1号被保険者については、市町村から送付される納付書や口座振替によって納付する(普通徴収)。普通徴収の場合、第1号被保険者の属する世帯の世帯主や第1号被保険者の配偶者も保険料を連帯して納付する義務を負う。保険料に過誤納があって徴収すべき保険料額を超えて徴収した場合、市町村は過誤納額を当該第1号被保険者に還付しなければならないが、当該第1号被保険者の未納に係る保険料その他介護保険法の規定による徴収金があるときは、当該過誤納額をこれに充当することができる(第139条)。



第2号被保険者の保険料


第2号被保険者の保険料は、各医療保険の保険者が、第2号被保険者が加入している医療保険の保険料と併せて介護保険料を徴収する。保険料率は、全国の給付状況に基づき、国が各医療保険者毎の総額を設定し、それに基づき医療保険者毎に保険料率を設定する[5]



  • 具体的には、国民健康保険の場合は毎月の保険料に介護保険料が加算される。協会けんぽ・船員保険の場合は被保険者の標準報酬月額に所定の介護保険料率を乗じて保険料を算出し、給与から天引きされる(負担割合は労使折半[8])。健康保険組合の場合も基本的に協会けんぽと同様であるが、規約で定めることにより事業主の負担割合を増やしたり、厚生労働大臣の承認を受けた組合では定率制に代えて定額制の介護保険料を設定できる。

  • 被扶養者の場合は保険料の負担はなく(制度全体で被扶養者に必要な費用を負担する形となる)、被扶養者の有無で被保険者の保険料額に変化はない。なお、健康保険組合の場合は、被保険者本人が介護保険第2号被保険者でない場合であっても、当該被保険者に介護保険第2号被保険者である被扶養者がある場合には、規約で定めることにより、当該被保険者に介護保険料額の負担を求めることができる。


各医療保険者は年度ごとに介護給付費・地域支援事業支援納付金を社会保険診療報酬支払基金に納付し、これをもとに基金は介護給付費交付金及び地域支援事業支援交付金を市町村に交付する。介護納付金については、これまでは医療保険者に所属する第2号被保険者数に応じての負担とされてきたが、平成32年度から全面総報酬割を導入することとし、各医療保険者の財政力が反映される仕組みとなる。総報酬割への移行は平成29年8月 - 平成31年3月までは2分の1、平成31年度は4分の3と段階的に実施される(第125条)。



認定手続き




























































平成25年度(2013年度)
給付認定者数(千人)[9]
被保険者 第1号
(65歳 - )
第2号
(40 - 65歳)
総計
要支援1
807 13 820 (14.0%)
要支援2
782 21 802 (13.7%)
要介護1
1085 24 1110 (19.0%)
要介護2
994 32 1026 (17.6%)
要介護3
745 20 766 (13.1%)
要介護4
692 17 709 (12.1%)
要介護5
586 20 605 (10.4%)
総計
5691千人 147千人 5838千人


介護サービスの利用にあたっては、あらかじめ被保険者が介護を要する状態であることを公的に認定(要介護認定)する必要がある。いきなり介護施設(介護サービス事業者)に行っても、介護保険を利用した介護は受けられない。まず保険者である市町村(介護認定審査会)による要介護認定が必要で、そのような仕組みにより保険財源の使用に制限を設けている[10]。これは、医療機関を受診した時点で要医療状態であるかどうかを医師が判定でき、診察の結果要医療状態でなかったとしても保険給付の対象となる医療保険と対照的である。



介護保険を利用するためには、要介護者本人またはその家族または法定後見人・代理人が、要介護者の住民登録がある市区町村役所の健康保険を管轄する部署に、要介護認定申請書に、要介護者の氏名・住所・生年月日と、申請人の氏名・生年月日(法人や自治体の場合を除く)・住所、要介護者の主治医名と主治医が所属する病院名を記載して提出し、初回認定には1 - 2か月の手続き期間が必要である[10]


初回認定・区分変更後の有効期間は原則として6か月(審査会の意見により3か月 - 12か月とすることもできる)、その後の更新認定の有効期間は原則として12か月(審査会の意見により3か月 - 36か月とすることができる)となる(施行規則第38条、第41条)。ただし、認定期間中に要介護度が変動したと判断した場合は臨時の認定更新が可能である。認定調査員が介護の必要な本人に面接し、実際に介護を要することを確認し、調査報告書を認定審査会に提出する。


認定審査の結果、要介護度(たとえば要介護3)や介護保険負担限度額の認定が行われ、その旨が記入された介護保険被保険者証が発行される。それを持って、ケアプランを作成できる事業所へ連絡すれば、介護支援専門員(ケアマネージャー)が面接の上、ケアプランを提示する。被保険者がこれに同意すれば、ケアプランに沿った介護保険サービスが受けられる。実際に介護が開始されるまでに家族等が接触する、市町村の職員・医師・市町村の調査員・介護施設(介護サービス事業者)のケアマネージャーのどれも直接に介護に携わるわけではなく、介護サービス事業者の介護職員や看護師が介護支援の担い手である。



給付の種類






































































日本の介護保険サービス給付(2015年)[11]
居宅型
3,889億円
(49.5%)
訪問通所
3,054億円
(38.9%)

訪問介護/入浴
816億円(10.4%)

訪問看護/リハ
211億円(2.7%)

通所介護/リハ
1,777億円(22.7%)
福祉用具貸与 247億円(3.2%)
短期入所(ショートステイ) 375億円(5.8%)
その他 458億円(4.9%)
地域密着型
948億円
(12.1%)
小規模多機能型居宅介護 182億円(2.3%)
認知症グループホーム 509億円(6.5%)
地域密着型介護老人福祉施設 134億円(1.7%)
その他 123億円(1.6%)
施設型
2,593億円
(34.9%)

介護福祉施設(特養)
1,363億円(17.4%)

介護老人保健施設(老健)
1,017億円(12.9%)
介護療養施設 227億円(2.9%)

居宅介護支援(ケアマネ)
408億円(5.2%)
総額
7,854億円


保険給付の種類として介護給付予防給付が主な柱である。介護給付は要介護認定を受けた者が受ける給付であり、予防給付は要支援認定を受けた者が受ける給付である。また、市町村が条例により要介護状態の軽減又は悪化の防止に資する独自の給付(市町村特別給付)をすることも可能である。


指定居宅サービス事業者の指定、介護老人保健施設・介護医療院の許可は、事業所ごとに都道府県知事が行う(第41条)。いっぽう、指定地域密着サービス事業者、指定居宅介護支援事業者の指定は、市町村長が行う(第78条の2)。指定に際し、市町村長は市町村介護保険事業計画との調整を図る見地から、都道府県知事に対し意見を申し出ることができ、都道府県知事は当該意見を勘案し、指定にあたって条件を付すことができる。指定の有効期間は原則6年である。


予防給付のうち、訪問介護と通所介護については、高齢者の様々な生活支援や社会参加のニーズに応えていくため、NPOや民間企業、協同組合、ボランティア等の多様な主体による柔軟な取り組みにより効果的・効率的なサービスが提供できるように、2017年(平成29年)4月までに新しい総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)に移行することとなった。これにより、既存の介護事業所によるサービスに加えて、多様なサービスが多様な主体により提供され、利用者がこれらのサービスの中から選択できるようになる[12]


平成30年4月より、児童福祉法、障害者総合支援法の指定を受けている事業所から介護保険法のサービスについて指定の申請が行われた場合、都道府県または市町村の条例で定める基準を満たしているときは、都道府県知事又は市町村長は当該基準に照らし「共生型サービス」としての指定を受けることができる(第72条の2)。これにより、同一の事業所で介護保険と障害者福祉の両方のサービスを一体的に提供することができる。



保険給付に関する事柄


保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならず、また被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者又は施設から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。さらにその内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない(第2条第2項 - 4項)。



  • 第1号被保険者は、介護(寝たきりなどで入浴・食事や排泄などの日常生活動作への介護)や支援(家事や身支度などの日常生活での支援)が必要な時、介護保険を適用してのサービスが受けることができる。

  • 第2号被保険者は、特定疾病のために介護が必要になった場合に、介護保険のサービスを受けることができる。



自己負担に関する事柄


自己負担の割合は、市町村から被保険者証とともに負担割合が記された証(負担割合証)が交付される[13]ことにより確認できる。


自己負担割合は原則として1割(ケアプランの作成は自己負担なし)である。ただし、第1号被保険者であって合計所得金額(収入から必要経費等を差し引いた金額)が160万円以上(例えば収入が年金のみの場合、年金額が年280万円以上)の場合、2015年(平成27年)年8月利用分から自己負担割合が2割となる。ただし2割とされる者でも、世帯の65歳以上の者の「年金収入とその他の合計所得金額」の合計が1人(世帯に他の第1号被保険者がいない場合)の場合は280万円未満、2人以上の場合は346万円未満であれば1割負担になる。さらに、2018年(平成30年)8月より、2割負担となる者のうち合計所得金額が220万円以上の場合は、自己負担割合は3割となる。ただし3割とされる者でも、世帯の65歳以上の者の「年金収入とその他の合計所得金額」の合計が1人(世帯に他の第1号被保険者がいない場合)の場合は340万円未満、2人以上の場合は463万円未満であれば2割または1割負担になる(第49条の2、第59条の2、施行令第22条の2、第29条の2)。また3割負担となっても、高額介護サービス費等により月額の負担上限は44,400円となる。


なお、第2号被保険者は所得に関わらず自己負担割合は一律1割である。



利用費


介護サービス事業者は、利用料の1割(2割)自己負担を利用者から徴収し、残り9割(8割)を各都道府県に設置されている国民健康保険団体連合会へ請求し、給付される[10]。国民健康保険団体連合会は9割(8割)の給付費を保険者から拠出してもらい運営する仕組みとなっている。滞在費、食費については原則自己負担となる[10]


低所得者は在宅介護サービスを受ける場合は自己負担金の上限額設定、施設介護サービスを受ける場合は食費と居住費の減免、在宅でも施設でも世帯合算した医療費と介護費の自己負担の上限額設定により(要介護者の収入・貯蓄・財産)+(介護保険と健康保険の自己負担分)+(行政からの助成金)で費用負担できるように制度設計されている[14]


高額介護サービス費制度により、利用者が支払う月々の利用費には上限が設けられている[13]



  • 現役並み所得者:世帯全員で44,400円(2015年8月利用分より新設)

  • 一般:世帯全員で37,200円

  • 世帯全員が市町村税非課税:世帯全員で24,600円
    • 老齢福祉年金の受給者、前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が年間80万円以下の者:利用者個人で15,000円


  • 生活保護受給者:利用者個人で15,000円


高額介護サービス費制度は健康保険の高額療養費の介護保険版。その他、類似するものとして「高額医療合算介護(予防)サービス費」があり、「高額医療・高額介護合算療養費」制度から介護保険分として支給されるもの(医療保険分は高額介護合算療養費)。[15]



地域支援事業等


市町村は、被保険者の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止及び地域における自立した日常生活の支援のための施策を総合的かつ一体的に行うため、地域支援事業として、以下の事業(介護予防・日常生活支援総合事業)を行う(第115条の45)。



  • 第1号訪問事業

  • 第1号通所事業

  • 第1号生活支援事業

  • 第1号介護予防支援事業

  • 第1号被保険者の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止のため必要な事業


また市町村は、介護予防・日常生活支援総合事業のほか、被保険者が要介護状態等となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援するため、などの地域支援事業として、包括的支援事業(被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業等)を行うものとされる(第115条の45)。


市町村は、第1号介護予防支援事業及び包括的支援事業その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保険医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設として、地域包括支援センターを設置することができる(第115条の46)。


このほか、市町村は、保健福祉事業(要介護被保険者を現に介護する者の支援のために必要な事業等)を行うことができる(第115条の48)。



受給権の保護


保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない(第25条)。租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することができない(第26条)。



不服申立て


保険給付に関する処分(被保険者証の交付の請求に関する処分及び要介護認定又は要支援認定に関する処分を含む)又は保険料その他介護保険法の規定による徴収金(財政安定化基金拠出金、納付金及び延滞金を除く)に関する処分に不服がある者は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、各都道府県に設置された介護保険審査会に審査請求をすることができる(第183条)。この審査請求は、時効の中断に関しては、裁判上の請求とみなされる。処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない(審査請求前置主義。第196条、行政事件訴訟法第8条第1項但書)。


介護保険審査会は、次に掲げる委員をもって組織する。委員は都道府県知事が任命し、委員の任期は3年(補欠の委員の任期は前任者の残任期間)とする。



  • 被保険者を代表する委員3人

  • 市町村を代表する委員3人

  • 公益を代表する委員3人以上であって政令で定める基準に従い条例で定める員数



時効


保険料、納付金その他介護保険法の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によって消滅する。保険料その他介護保険法の規定による徴収金の督促は、民法第153条の規定にかかわらず、時効中断の効力を生ずる(第200条)。



課題



デイサービスの過剰供給


2015年の介護報酬改定では、小規模デイサービスの供給過剰が指摘されており、それに対する基本報酬の引き下げが議論されている[16]



施設サービスの供給不足


施設介護サービスのうち、特別養護老人ホームの供給が需要に対して著しく不足していて、入所までに年単位の待機が発生している状況である[17]。厚生労働省は介護療養型医療施設を平成24年(2012年)3月31日までに、医療療養病床、介護療養型老人保健施設、介護老人保健施設、介護老人福祉施設のいずれかの業態に転換する計画を進めていたが[18]、介護療養病床の一部しか業態転換できず、業態転換完了の目標期限は平成30年(2018年)3月31日に延期された。



不正請求



偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者があるときは、市町村は、その者からその給付の価額の全部又は一部を徴収することができる。市町村は、サービス事業者等が偽りその他不正の行為により介護報酬等の支払いを受けたときは、当該サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額の40%を徴収することができる(第22条)。


介護保険が始まった平成12年度(2000年度)から平成21年度(2009年度)末までに、介護報酬の架空請求・水増し請求で市区町村が返還を求めた金銭は98億円に上っていて、なおかつそのうち10億円以上が回収できていないことが、平成23年(2011年)2月に分かった[19]。また、平成21年度(2009年度)に介護報酬の不正請求などで行政処分を受けた介護事業所は150以上に上っている[19]



介護報酬


介護保険適用対象となる介護サービスについて厚生労働省が定めた報酬が介護報酬である。


介護報酬の初改定が2012年(平成24年度)に行われ、そして2014年度(平成26年度)に改定されたあと、2015年度(平成27年度)にて行われた。



脚注


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  1. ^ 日本社会保障資料Ⅳ(1980-2000) (Report). 国立社会保障・人口問題研究所. (2005-03). Chapt.16 老人福祉. http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/kaidai/16.html. 


  2. ^ “介護保険制度の仕組み”. 政策について > 分野別の政策一覧 > 福祉・介護 > 介護・高齢者福祉 > 介護保険制度の概要 > 介護保険とは. 厚生労働省. 2013年8月4日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2013年5月20日閲覧。


  3. ^ 厚生労働白書 2017, p. 393.


  4. ^ 後期高齢者医療広域連合はここでいう「医療保険者」には含まれていない。

  5. ^ abc厚生労働白書 2013, 資料編p.228.


  6. ^ “第7期計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について” (プレスリリース), 厚生労働省, (2018年5月21日), http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207410.html 2018年6月7日閲覧。 


  7. ^ “介護費用と保険料の推移”. 政策について > 分野別の政策一覧 > 福祉・介護 > 介護・高齢者福祉 > 介護保険財政. 厚生労働省. 2013年5月20日閲覧。


  8. ^ 船員保険の場合は被保険者負担分の料率を控除できるとされ、実際には事業主負担の割合が高くなっている。


  9. ^ 平成25年度 介護保険事業状況報告(年報) (Report). 厚生労働省. (2014). http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/11/index.html. 

  10. ^ abcd厚生労働白書 2013, 資料編p.229.


  11. ^ 厚生労働白書 平成28年版 (Report). 厚生労働省. (2013). 資料編p235. https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/. 


  12. ^ 厚生労働白書 2017, p. 397.

  13. ^ ab“介護保険制度の概要”. 2015年10月11日閲覧。


  14. ^ 厚生労働白書 2013, 資料編pp.228-229.


  15. ^ 介護保険サービスに係る利用料(厚生労働省)


  16. ^ “ウオッチ!2015介護報酬改定小規模デイは基本報酬引き下げへ”. 日経メディカル. (2014年11月15日). http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201411/539477.html 


  17. ^ 特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究 (PDF)”. 社会保障審議会-介護給付費分科会 > 平成24年5月17日の資料. 厚生労働省. 2013年5月19日閲覧。


  18. ^ “療養病床の再編成と円滑な転換に向けた支援措置について” (PDF) (プレスリリース), 厚生労働省, (2008年3月), http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/hoken/dl/seido01.pdf 2013年5月20日閲覧。 

  19. ^ ab2011年2月23日の朝日新聞朝刊6面




参考文献




  • 厚生労働白書 平成26年版 (Report). 厚生労働省. (2013). http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/. 


  • 厚生労働白書 平成28年版 (Report). 厚生労働省. (2017). http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/. 



関連項目




  • 日本の医療 / 日本の福祉

  • ゴールドプラン (厚生労働省)

  • 介護サービス事業者の種類

  • 日本ケアマネジメント学会

  • 社会的入院


  • 社会保険 - 医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険

  • 社会保険料控除

  • 介護保険法

  • Category:日本の介護会社



外部リンク




  • 介護保険法 - e-Gov法令検索


  • 介護保険制度の概要 - 厚生労働省


  • 社会保障審議会 (介護給付費分科会) - 厚生労働省


  • WAM NET(ワムネット) - 独立行政法人福祉医療機構ワムネットが制作した、福祉・保健・医療の総合情報サイト。





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